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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)1459号 判決 1985年12月18日

控訴人 破産者株式会社今泉商店破産管財人 石井成一

右訴訟代理人弁護士 小沢優一

桜井修平

被控訴人 有限会社九段中央商事訴訟承継人 株式会社ケイワン

右代表者代表取締役 九十九ひろ子

右訴訟代理人弁護士 宮下明弘

宮下啓子

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次の一及び二を付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決二丁裏七行目「今泉清二郎」は「今泉清二朗」の誤記であるから、同所以下「清二郎」とあるのを「清二朗」に訂正する。

一  控訴代理人の陳述

弁済者代位においてはその要件として債務者に対する求償権が存在しなければならないにもかかわらず、被控訴会社がいかなる根拠に基づいてこれを有するのか、いまだ全く明らかにされていない。被控訴会社は、本件不動産の売主に支払うべき売買代金をもって根抵当権者及び差押債権者等に弁済したのであるから、債務者今泉商店に対する求償権を取得し得るいわれはない。もしこれを肯定するときは、根抵当権者その他に対する弁済により担保等を消滅せしめておきながら、一方では求償権の名において右弁済分を債務者から全額回収し得る(本件では今泉商店が破産しているため、全額はたやすく回収することができないにすぎない。)ことになり、しかも売主に対しては代金を支払わないのであるから、結局対価ゼロにて担保等の負担のない不動産を取得することができるからである。

二  被控訴代理人の陳述

被控訴会社は、根抵当権及び差押え等の負担付きで本件不動産を今泉清二朗ほか三名から買い受け、自ら六億円弱を出捐して右の負担を除去したのであり、右売買における代金額はこれら弁済額の合計ということになるが、右清二朗らに対する支払はなかったものである。そして、根抵当権者に対する弁済に当たっては、本件で問題になっている協和銀行との関係ではまずその額をいかにするかを巡って折衝を重ね、その結果、破産の配当は同行が受領するという前提で弁済額を取り決めれば問題がなかったところを、同行の要求もあって、右配当は弁済者代位により被控訴会社が受けることとした上で、その見込額を上乗せした額をもって弁済額としたものであるから、右上乗せ額を配当によって被控訴会社が取得することは、何ら妨げられるものではない。のみならず、控訴人においては、協和銀行に対し既に確定している破産債権に見合う配当をすべき職責があり、それが代位弁済によって被控訴会社に移転したにすぎないのであるから、本訴請求を拒むべき何らの理由もないはずである。

理由

一  本件は物上保証の目的不動産を買い受けた第三取得者の弁済者代位の事件であるところ、その代位の要件としての弁済は、売主(物上保証人)に支払うべき売買代金をもってした弁済ではなく、買主たる第三取得者が売買代金を既に売主に支払っていることを前提とし、右代金の支払とは別個の出捐による弁済でなければならない。けだし、売主に支払うべき売買代金をもって弁済したのであれば、債務者に対する求償権自体が発生しないからである。

しかるに、本件においては、売主たる今泉清二朗ほか三名に対する本件不動産の売買代金の支払がなかったこと、及び右売買代金額は根抵当権者その他に対する弁済額の合計という関係になることは被控訴人自ら認めるところであり、これらの事実に《証拠省略》を総合すると、右清二朗らは被控訴会社(正確には、合併前の有限会社九段中央商事。以下同じ。)との間の本件不動産売買の事前交渉に際し、被控訴会社において協和銀行をはじめ根抵当権者たる金融機関その他に対し債務弁済をし、特に金融機関に対する債務を消滅させてくれるのであれば(そうしてくれれば、清二朗らの再起更生に役立つ。)売買に応じてもよいと答えたこと、その結果本件不動産の売買契約が成立したこと、そして被控訴会社は売買代金を清二朗らに支払わないで、その代わりに本件協和銀行に対する弁済その他の弁済をしたこと等の事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

右認定の事実関係からすると、被控訴会社は清二朗らに支払うべき売買代金をもって協和銀行に弁済したことになり、これとは別個の出捐によって弁済したことにならないから、被控訴人の本訴請求は、既にこの点において失当たるを免れない。

二  被控訴人は、協和銀行が自ら破産の配当を受領することにした場合であればその分だけ弁済額が少なくて済むことを理由とし、それとの比較において、その分の配当に預ることは何ら妨げられないと主張する。しかしながら、協和銀行が自ら配当を受ける分はおよそ被控訴会社の弁済になり得る余地はなく、一方、右一で認定したように被控訴会社では本件不動産の売買代金を清二朗らに支払わないで、その代わりに協和銀行等に債務弁済をするのであるから、右配当分は清二朗らとの関係では売買代金の一部未払として扱われるべきものであり(言い換えると、これを加えた額を弁済してはじめて約旨に従った履行になる。)、したがって、その分だけ弁済額が少なくて済むというのも、これを被控訴会社が利得できることにはならず、本来であれば清二朗らに償還されなければならない筋合いのものである。よって、被控訴人の右主張は、その比較の前提としている点において既に理由がない。

被控訴人はまた、協和銀行であれば当然に配当に預り得たのが代位により被控訴会社に移転したにすぎないと主張するけれども、右一で見たように被控訴会社の協和銀行に対する弁済は清二朗らに支払うべき売買代金をもってしたものであり、したがって本来の出捐者は清二朗らであるというべきであるから、代位による被控訴会社への移転を言う被控訴人の右主張は、筋違いであって理由がない。

三  以上のとおりであって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は不当であるからこれを取り消し、右請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条及び第八九条を適用して、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 賀集唱 裁判官 梅田晴亮 上野精)

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